【切断に至った経緯】人工膝関節の深部感染の発生原因と症状、カナダでの初期治療について

大腿義足
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骨肉腫の発症から5年間は、腫瘍の再発や肺への転移を一番懸念していましたが、5年以降はもっぱら人工膝関節自体の緩みや感染が悩みの種になりました。

術後10年の節目の年に一人旅に出かけよう

そう意気込んで旅に出たことがきっかけで足を失うことになるとは、当時夢にも思っていませんでした。

人工膝関節に感染が起きたら治療が長期化するから、感染だけには気をつけて

これまでに何度も主治医から釘を刺されていました。

人工膝関節を入れている人の半数は10年以内に緩みや感染が原因で何らかの手術を受けているそうですが、私の場合は感染が主な原因でした。

感染の怖さは十分に分かっていたはずなのに、10年経って緩んだ気持ちに感染の魔の手が忍び寄ってきたのでしょう。

長い闘病生活がどのように始まって、どんな治療を受けてきたのか、私のケースをお伝えできたらと思います。

人工膝関節に感染の疑い

脛に熱感と腫れの症状

人工膝関節に炎症が見られ始めたのは2018年7月頃です。

3週間にわたってヨーロッパで一人旅をしていた時のことです。

その年は熱波がヨーロッパ全域を襲って、日中は35℃を超える猛暑日が続いていました。

旅行も終盤に差しかかったある日、人工膝関節をいれた左足の脛の辺りに、鈍い痛みと全身に倦怠感を覚えました。

痛みがある場所を確認してみると、脛全体に赤みと腫脹があったので、これはおかしいと思って慌てて現地の救急クリニックで診てもらうことになりました。

水ぶくれぐらいの大きさに腫れた部分を切開すると、中からドロッとした黄色い膿がでてきました。

細菌に感染している疑いがあるということで、抗生剤を数日分処方してもらい、様子をみることにしました。

こぶちゃん
こぶちゃん

この時は抗生剤で治るだろう、カナダに戻ってもう一度医師に診てもらおうと思うぐらいで、事態を楽観視していたな。

考えられる感染の原因

バックパッカーの旅は、重いリュックを常に背中に背負いながら移動します。キャリーケースは使いません。

重い荷物を持ちながら長距離を歩くと事前に分かっていたので、人工膝関節に負担をかけないためにも、厚手の布地のサポーターを膝から脛あたりまで巻いていました。

外に出れば汗がジトッとでるような猛暑日の中歩き続けていたので、一日の終わりにはサポーターは汗でぐっしょりと濡れていました。

もちろん毎日シャワーを浴びて、清潔な状態を保ってはいましたが、不衛生な状態で歩き続けるうちにサポーター内で菌が繁殖し、皮下組織の少ない脛の辺りから感染してしまったのではないかと思います。

それ以外に思い当たる節はありません。

カナダでの初期治療

地元の整形外科を受診

旅行先からカナダに戻った後に、念のために地元の整形外科で脛の状態を診てもらうことにしました。

処方してもらっていた抗生剤の効果があって、腫れと膿の症状は治まっていたので、深刻な状況は脱したと内心ホッとしていました。

抗生剤は2週間服用し続けた方がいいとの医師の診断のもと、薬の服用を続けていたのですが、薬の服用を終える直前に状況が一変しました。

旅行先で自覚した初期症状と似たような腫れと熱感、倦怠感が再燃してしまったのです。

救急外来で診てもらうことに

症状が当初よりも悪化しているようだったので、別のクリニックで診ていただき、紹介状を持って救急外来に行きました。

待つことおよそ4時間。

診察してくれた強面の整形外科医に、人工膝関節が入っていること、これまでの症状と発症してからの期間など事細かく説明すると、その医師の顔がみるみる険しくなっていきました。

「人工膝関節の深部まで感染している可能性が高い。膿を培養して細菌を特定してみるけれど、抗生剤の投与は一時しのぎでしかない。外科的手術は避けられないと思う。カナダで手術をするなら、切断以外の道はないでしょう。この状況はとても厳しいと思って覚悟してください。」

切断という言葉を聞いた瞬間、ポタポタと涙が溢れて、診察室で呆然と立ちすくんでしまいました。

切断以外の選択肢があるかもしれないと、藁にも縋る思いで日本のかかりつけ医に連絡をとったところ、一度戻ってくるようにと言われたので、日本に一時帰国し治療を受けることに決めました。

日本に一時帰国し、かかりつけ医を受診

日本では、人工膝関節に感染が見られる場合、切断以外の選択肢も提示してもらうことができます。

それは人工関節の抜去と再置換です。

手術(デブリドマンと洗浄)

帰国後すぐに足のX線と血液検査を受けましたが、幸いレントゲンからは深部感染の時に見られる兆候は確認されず、炎症反応(CRP)も落ち着いていました。

抗生剤を一時的に止める形で感染の有無をもう一度調べましたが、人工膝関節を抜去するほどの腫れや赤みがないということで、感染源の切除と洗浄手術を行うことになりました。

大掛かりな手術になる前に対処ができたんだ、切断は回避できそうとホッとしたのを覚えています。

術後2週間を目途にカナダへ再渡航

この時菌の培養結果は陰性で、菌の特定までには至りませんでした。

しかし、術後の経過はいたって順調だったので、洗浄で感染が治まったと錯覚してしまいました。

最悪の場合切断まで至ってしまうという、カナダで実感したはずの危機感はどこかに消え去っていたのです。

洗浄だけで炎症が治まるのが最高のシナリオ。

感染が再燃するのが最悪のシナリオ。

そう主治医には言われてはいましたが、カナダに戻るタイムリミットが近づいていたという個人的な事情もあったので、主治医の忠告を押し切る形でリスクを承知で戻ることにしました。

こぶちゃん
こぶちゃん

今振り返ると、ここが運命の分かれ道だったのかなって思う。完全に治るまで、最低2、3カ月日本で様子を見るべきだったのかなと。

カナダで治療を再開

カナダ到着後2週間で感染の再燃

カナダの生活を再開させてから2週間も経たないうちに、最悪のシナリオと言われていた感染症状の再燃が起こってしまいました。

脛にある手術痕の辺りがジクジクと痛み、その周辺がプクッと赤く膨れだしました。

こぶちゃん
こぶちゃん

この時ばかりは天を仰いだな。悪化の一途を辿る予感しかしなくて、自分の判断を猛省。

すぐに日本に再帰国することができない状況だったので、カナダで出来る限りの治療を受けることにしました。

地元の感染症医によるフォローアップ

カナダで集中的に治療を受けると決めてから、親身になってサポートしてくださったのが感染症専門医です。

私が置かれている状況にも理解を示し、負担が少なくなるような治療方針を提示してくれたり、辛い気持ちにも寄り添ってくれるような優しい女性ドクターでした。

少なくとも3、4カ月は日本に戻れないことを伝えると、感染症の症状の悪化による敗血症のリスクを下げるために、6週間の抗生剤の点滴を毎日受ける必要があるという説明を受けました。

起炎菌が特定されていなかったので、幅広い細菌に効果がある抗生剤(キュビシンとビブラマイシン)を使用しました。

カナダで6週間の点滴静脈注射

自宅で点滴投与を行う

毎日点滴をするとなると入院?と思う方もいるでしょう。

カナダでは、軽症者や点滴の管理ができる人には自宅で点滴治療を行うことが積極的に推進されています。

私のように毎日抗生剤の点滴が必要な人が外来に来て治療を受けることは、非常に珍しいそうです。

当初は時間を見つけて6週間毎日病院に通う予定でしたが、時間的にも体力的にも難しいとの判断から、自宅での治療に切り替えました。

静脈ポートを留置する

毎日自分で注射を打つわけにはいかないので、静脈ポートを看護師に留置してもらいました。

感染予防のために防護服に身を包んだ看護師2名が部屋にやってきて、ポートをいれようとしてくれたのですが、私の血管が細すぎてなかなか入らず、悪戦苦闘しているようでした。

応援にきたベテラン男性看護師と「君、どこから来たの?日本?夏休みに旅行に行きたいと思っていたんだよ」と終始会話をしながら、和やかな雰囲気の中で施術が行われました。

痛みも特になく、2時間程度で終わって、そのまま帰宅しました。

点滴台の準備と薬剤の調達、点滴の針の交換をする

点滴台はカナダ赤十字社から2カ月間無料で借りることができました。

点滴をする上で気をつけなければいけない液漏れや点滴を落とすスピードなど、細かいチェックポイントを病院で看護師さんに丁寧に教えてもらったので、点滴に対する不安は少しずつなくなっていきました。

こぶちゃん
こぶちゃん

点滴マニュアルももらったし、直接デモンストレーションもしてもらったよ。

分からないことや問題が起きたらすぐに看護師に連絡がとれるような体制が整っていたので、安心して治療に向かうことができました。

また、定期的に近くのクリニックで点滴の針のチェックや包帯の交換をしてもらえたので、感染予防も徹底されていた印象を受けました。

薬剤は2日に一回、病院の薬剤部に取りにいきました。翌日の分は冷蔵庫に保存しておきます。

こぶちゃん
こぶちゃん

6週間も2日に一回病院に行くのは結構しんどかったかな。でも毎日通うことを考えたら、自宅で行う方が楽だと思ったよ。

6週間の治療の効果

6週間の治療の間にも、2週間に一度の頻度で炎症反応(CRP)の値をチェックします。

この値が落ち着いていれば、抗生剤に一定の効果がみられているということです。

幸い6週間の治療を終える頃には、薬を飲んでいる状態であれば、CRPが正常値まで下がりました。

しかし感染症のドクターは「これはあくまでも一時的な処置で、どこかの時点でやめないと、細菌が薬剤耐性を持ってしまい抑えられなくなる可能性がある。年齢を考えると、一生抗生剤を服用する選択肢は現実的ではない」と、この治療の限界について何度も口にされていました。

私自身も異国の地で治療を続けながら生活することに限界を感じ始めていたので、家もすべて引き払って、日本に帰って治療に本格的に専念することに決めました。

まとめ

人工膝関節の治療は困難を極めます。

一旦人工物に細菌が付着すると、抗生剤だけでは菌を完全に死滅させることが難しくなるからです。

私はそこを怠ってしまったために、感染が関節の奥深くまで広がってしまい、取り返しのつかないことになってしまいました。

感染が広がってしまうと、最高の医療チームのサポートがあったとしても、人工膝関節の温存ができる可能性はどんどん下がっていきます。

つまり、初期対応でいかに感染拡大を防ぐことができるかがとても大切だということです。

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